仕事を通じて社会に貢献する高齢者の就業システム

「月刊シルバー人材センター」2024.7月号 ”カメラ・ルポ ━ 働く”に掲載されました。

公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会「月刊シルバー人材センター」 2024.7月号 ”カメラ・ルポ ━ 働く”に掲載されました。

以下にその全文を掲載します。

喫茶店で地域に憩いの場を提供

公益社団法人 北名古屋市シルバー人材センター(愛知県)

北名古屋市SCでは、独自事業として令和2年から「喫茶もえの丘」を運営。会員が育てた野菜を使ったランチなどを提供し、近隣で働く人や高齢者の日々の食を支えている。

北名古屋市SCが運営する「喫茶もえの丘」で働くメンバー。写真右から大石紀子さん、永野千恵子さん、濱口千代子さん、岩田道子さん、鈴木千代子さん。

 平成18年に西春日井郡師勝町と西春町が合併して生まれた北名古屋市。それに伴い、同年に2町のセンターが統合され、公益社団法人北名古屋市シルバー人材センターとなった。センターでは、独自事業として令和2年10月から「喫茶もえの丘」を運営している。

民間企業から店を受け継ぐ

 「喫茶もえの丘」があるのは北名古屋市SCから車で10分ほどの距離にある北名古屋市総合福祉センターもえの丘内。元々、もえの丘内の喫茶店は民間企業が経営していた。だが、その企業が撤退することになり、市から北名古屋市SCで喫茶店の運営ができないか相談されたのがきっかけだった。
 「店舗も広く、最初はこの規模の店を運営するのは難しいと思いましたが、市の職員がそこで働いていた人たちに声を掛けてくれ、5人がそのまま働くために北名古屋市SCの会員になりました。店舗とスタッフを受け継ぐ形でこの店がスタートしたのです」と話すのは大西清常務理事兼事務局長。
 実は、北名古屋市SCには喫茶店運営の経験がある。東支所内で平成27年に「喫茶あけぼの」を開店したが、施設の老朽化による支所閉鎖のため令和3年に閉店。しかし、その店は事務所の一室でメニューも少なく、ゆるやかに営業しているものだった。人の出入りが多く規模の大きなもえの丘内で運営するのとは事情が異なる。
 そこで、「喫茶もえの丘」開店時にはメニューを一新。職員と会員とで相談して決めた。開店までの経緯をそう教えてくれたのは事務局職員の大﨑利也さん。
 「パンはどこのものを使うか、卵はどこで仕入れるか、米はどこのものがおいしいか、など一から検討しました。メニューは最初にメンバーと事務局職員で試食し、皆が納得したものを提供しています」と、こだわりがうかがえる。

「喫茶もえの丘」の営業時間は9~16時、定休日は第3日曜日と年末年始。

「喫茶もえの丘」が入る北名古屋市総合福祉センターもえの丘。美術館さながらの外観が印象的。

11時30分からのランチタイムが始まると、キッチン内は大忙しになる。

大きな窓から日が入る、全45席の広い店内。昼時には満席になることもある。

ふれあい農園の野菜をふんだんに使ったランチ

 「喫茶もえの丘」ではモーニングタイムとランチタイムのメニューがあり、朝はトーストのセット、昼はエビフライ定食やカレーライスなどを提供。一番人気は日替わりで登場する「お楽しみランチ」だそうで、メインの料理に数種類の副菜とみそ汁が付いて600円(税込み)とお手頃な価格。これらのレシピ開発や調理は主に大石紀子さんが担当している。
 「メニューはなるべくある材料で考えていきます。野菜は北名古屋市SCの独自事業であるふれあい農園で採れたものを使い、家庭料理が中心です。最近は食材の価格も高騰しているので、会員たちが作った季節の野菜を提供してもらえるのはありがたいですね」と大石さん。料理をなるべく安く提供するためにも、材料費などのコストの計算は欠かせないという。
 「お客さんの中には近所の高齢者も多くいます。1人暮らしの高齢者にとって食事の用意が一番大変。ここで毎日でも食べてもらえるよう、なるべく安くて野菜たっぷりの体に優しいものを提供できれば」と、価格設定の背景も教えてくれた。続いて、「安くとはいえ、手を抜いたらお客さんには分かります。この間は、『料理に心がこもっている』という声をいただきました。すごくうれしかったです。毎日たくさんの人が来てくれるのは励みになります」と料理への思いを語ってくれた。

料理をトレーに並べる濱口さん。調理をする人、盛り付ける人…と流れ作業で準備をしていく。

皿にあらかじめ盛り付けておき、メンチカツをカットしていく大石さん。

麺類のオーダーが入ると麺をゆでる調理器具にセット。キッチンには本格的な調理設備が整えられている。

出来上がった料理は次々と客の元へ運ばれていく。

ゆったりとしたカフェタイムに常連客と話す大石さん。おしゃべりを楽しみに訪れる客も多い。

お楽しみランチ。この日のメイン料理はメンチカツ。副菜にはタケノコやワケギなどの旬の野菜がたっぷり。

開店当時から人気が高い定番メニューのカツカレー。

モーニングでは、地元で人気の「本間製パン」の食パンを使用。厚切りのふわふわ食感が自慢

会員同士で協力し合って運営

 現在、「喫茶もえの丘」で働くメンバーは7人。モーニングタイムは2人、ランチタイムは4人、ランチ後のカフェタイムは2人が必ずいるように、交代制にして毎月シフトを組んでいる。
 「70歳になってもこうして働く場所があるのはセンターの会員だからこそ。
普通の喫茶店なら断られてもおかしくはありません。家が近いので、こうして毎日通って働けることがありがたいです」と話すのは、濱口千代子さん。濱口さんと岩田道子さんは、「喫茶もえの丘」が前身の店の時から働いているという。「年齢的にもお互いに協力し合っていかないといけません。重いものを運ぶのが厳しかったり、体の調子が良くなかったりする時は助け合いです。おかげさまで毎日、店が忙しいので、いい運動になっています」と岩田さん。2人は、高齢者の視点を交え、働く中で感じている仕事のやりがいについて語ってくれた。
 コロナ禍では施設の休館によって売り上げが落ちたが、最近は1日に30~40食が出ることもあるという。「喫茶もえの丘」は、おいしい料理で着実に常連客を増やし、今では地域の人にとって大切な憩いの場になっている。

(林真央)

ランチタイムが終わると、調理器具や食器を一気に片づける。

混雑が落ち着いたら、コーヒー豆の補充などの業務も行う。

ふれあい農園で育てられた野菜は料理に使われるほか、店頭でも販売される。

お気軽にお問い合わせください
公益社団法人 北名古屋市シルバー人材センター
TEL 0568-21-0810
FAX 0568-25-1880

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